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公開日:2021/07/01

代表ブログ

小児訪問看護・介護HUGの14年の歩み

2021年5月19日にケアプロ株式会社と資本関係を結んだ株式会社エイチ・ユウ・ジー14年間の歩みをまとめました。

 

創業前夜 ~「どこにも行けない」お母さんと出会う~

1997年、介護保険制度ができる前に、町田にいた上薗は成人の訪問看護を立ち上げた友人の誘いで、訪問看護に足を踏み入れることになる。その時に重症心身障害児等在宅療育支援センター西部訪問看護事業部(通称:西部)の方と出会い、そこで小児の訪問看護に取り組んだ。その後、引っ越して東部訪問看護事業部(通称:東部)でも小児の訪問看護をすることになったが、お母さんが外出できず、「どこにも行けないんだ」と思った。そのため、授業の付き添いやお母さんの外出時の留守番は自費サービスで提供した。2005年、小児の訪問看護と介護に対応した事業所の立ち上げに関わった。当時、小児の訪問看護をしているところは珍しく、看護師が訪問看護の後にヘルパーとして介護の時間も使ってケアを継続することで、お母さんが外出できるように取り組んだ。

 

 

参考:HUGでの小児訪問看護・介護の事例

訪問看護・介護では、児やお母さんとのコミュニケーションを大切にし、一緒に考えて、ケアを行い、気管切開孔周辺等の清潔管理や呼吸機能向上、口腔機能向上、側彎症予防等に取り組む。玩具選びを含めて、子供の成長・発達段階を理解したうえで、必要なケアを専門的な視点から行う。病院ではなく家庭という限られた資源の中で、ご家族の負担を踏まえて、各種助成や手当、保育、学童等の情報提供やコーディネートをしながら、地域での暮らしを支える。

 

創業決意 ~パートナーに恵まれた~

上薗は、髙野や清水、坊と、杉並区と中野区を中心として地域に根差した小児訪問看護・介護の立ち上げを構想する。「だっこ」が、子供の成長や愛着形成において重要なので、HUGを会社名や事業所名にすることにした。

上薗や髙野、清水、坊は、重症心身障害児の在宅医療・介護に関する専門的な知識や技術、経験を有していた。そして、経営全般は上薗、看護は髙野、居宅は清水、リハは坊という形で、それぞれの強みで役割分担をして、創業準備をした。創業後に大学小児看護の教員から「看護、ケア、相談があるのは、贅沢ね」と言われた。

 

ロゴ

 

看護の髙野、ケアの清水、リハの坊

髙野は、重症心身障害児等在宅療育支援センター東部訪問看護事業部に、上薗と同時期に在籍し、並行して診療所の立ち上げにも関わり、請求や事務も行った。その後、小児の訪問看護の事業所に誘われた時に上薗と出会った。重症心身障害児等在宅療養支援が終了しても、訪問看護が必要な児がいることを知り、上薗と地域に根差した事業を立ち上げることになった。

清水は、創業時は29歳で、上薗や髙野、坊よりも若い男性だが、養護教諭の母の影響で、幼少期から特別支援学校に出入りし、大学で臨床心理学を学び、都立の児童会館やホスピス、精神障害者のグループホームでの宿直、特別養護老人ホーム、居宅介護事業所の立ち上げを経験していた。たまたま、別事業所で働いてきた上薗と、あるお子さんのご家庭への訪問で出会う。そして、共に理想の小児専門の訪問看護・介護の事業を行うことを話し合うようになった。

坊は、理学療法士として、総合病院、ICU、保育園、特養、訪問看護を経験し、小児の呼吸リハを通じて上薗や髙野と出会い立ち上げに関わる。

 

創業時の業界紙や書籍

 

創業時の社会的課題

出生数の減少による少子化の一方で、2,500g未満の低出生体重児や医療的ケア児の増加があり、NICU入院児が増加し、NICU病床が逼迫するようになってきた。そこで、政府や自治体が、在宅移行を推進する政策に転換していった。小児の訪問看護・介護が普及するタイミングに創業することになった。創業のタイミングが、時代の変わり目だった。

 

引用:東京都の「NICUを取り巻く状況

1)低出生体重児の増加

2)NICU病床のひっ迫

3)訪問看護・介護が必要な児の増加

4)長期入院児の医療ケア

HUG創業

2007年7月、杉並区で株式会社エイチ・ユウ・ジーを創業

2007年10月、訪問看護ステーションHUGを開設

2007年10月、ケアステーションHUGを開設

2014年、相談支援事業所HUGを開設

 

創業時に使用していた複写式記録

 

革新的な小児専門

介護保険の事業所でありながら、要介護認定を受けた利用者へのサービスをせず、小児に特化していたことは、当時は非常に珍しかった。高齢者の新規依頼もあり、心苦しい気持ちもあったが、それ以上に、小児の受け入れが難しい他事業所が多かったため、小児専門で社会的な役割を担うことができた。

居宅介護の時間に、看護師が、一部、自己負担をいただいて、レスパイトをして長いお留守番をすることもあった。区のレスパイト事業が始まる前から先駆的な取り組みをしていた。

 

HUGを利用しているお母さんからいただいた本

 

子供やお母さん、地域、仲間と共に成長

頑張っているお母さんや仲間がいたことで一緒に成長できた。お母さんのところに招かれて忘年会で鍋や大きなおにぎりを食べたこともあった。そして、地域のニーズに合わせて、レスパイト事業や移動支援事業なども開始した。また、障害児のお母さんたちが運営するNPO法人みかんぐみの出版への協力や寄付を行ったり、国立成育医療研究センターの医療型短期入所施設「もみじの家」への寄付も行い、地域の皆さんと一緒に小児の医療や福祉を育んでいった。

 

毎年プレゼントしている手作り干支人形

 

小児専門の訪問看護と居宅介護としてのブランド浸透

病院や訪問診療、保健センター等の小児関係者からは、すぐに認知していただき、その後も継続的に連携させていただく関係になった。介護だけならケースワーカーからの紹介が多いが、病院NICUからの在宅移行が多く、看護と福祉の両輪でのサービスにつながった。そして、事務所で情報共有ができ、看護が週2日、福祉が週3日で、お互いに補完し合い、多様な視点から厳しく意見交換して、HUGのレベルを引き上げていった。

 

多様なお子さんを受け入れ

0歳から20歳以上まで、100名以上のお子さんがいる。てんかんを持つ児は、53%。脳性麻痺は、低酸素性虚血性脳症。染色体異常/遺伝子異常は、13、18、21トリソミー、2q-症候群、1p36欠失症候群、22q11.2欠失症候群、コフィンシリス症候群、モワットウィルソン症候群、エマヌエル症候群、DPH1遺伝子異常、CFC症候群、プラダーウィリー症候群。先天性心疾患は、純型肺動脈弁閉鎖、極型ファロー四徴症、両大血管右室起始症。その他は、末期腎不全、ウェルドニッヒ・ホフマン病、タナトフォリック骨異形成症、ピルビン酸脱水素酵素複合体欠損症、もやもや病である。

 

1)年齢別利用者数(n=102、平成31年4月)

2)疾患別利用者分類(n=102、平成31年4月)

3)重症児スコア別利用者分類(n=102、未就学児51名、就学児32名、18歳以上19名)

4)医療デバイス別利用者分類(n=102、未就学児51名、就学児32名、18歳以上19名)

 

杉並・中野という立地

地域密着型のHUGが選んだのが、杉並・中野であった。高円寺駅前30秒の立地に事務所がある。訪問の中心となる杉並区と中野区の合計の面積49.65㎢、人口926,776人(2021年5月1日推計人口)であり、香川県の人口951,049人(2020年10月1日)と同程度である。子供も多く、人口密度も高く、周辺にNICUを持つ大病院も多い。そして、働き手にとっても暮らしやすく、通勤しやすい。

 

HUGがある高円寺駅南口

 

HUGのケアモデル確立

①長期的視点のケア、②ご家族が依存しすぎない自立支援、③多職種・複数スタッフによるチーム連携といったケアモデルを確立した。単にケアサービスを調整して与えるケアではなく、本人の力を引き出すエンパワーメントを大切にしている。その前提として、お母さんとのラポール形成が欠かせない。また、訪問看護が週5の場合は、複数の視点を入れるために、他の事業所と2事業所で入っている。

 

小児の大変さとやりがい

大変なことも多いが、大変なことが醍醐味でもあると考えている。「あなたがいると安心」と言われ、お子さんの成長を共有してもらえることはやりがいになってきた。朝夕のニーズが高かったり、お子さんが30㎏になって入浴介助が大変になったりすることがあり、小児ならではの課題はある。

 

地震の揺れを確認する事務所のブタ

 

定着率が高い組織づくり

2021年6月現在、看護や介護、PT、OT、STが34名の組織になった。若手から子育て中、プラチナまで、小児だけをやりたいという医療介護職が、全国から集まってきた。子供しか経験がなく、高齢者は苦手という人もいる。他事業所では、小児だけでなく、高齢者等を任されることもあるが、HUGでは、小児に専念できることが働く人にとっても魅力になった。

 

事務所の様子

 

組織の自立型モデル

最初から、看護と居宅をそれぞれ分けて運営している。経営者は、相談を受けて、助言はするが、看護や居宅のメンバーが中心となって現場を運営している。各スタッフは、初期の同行訪問等の教育を受けた後は、直行直帰で働くことが多く、働き方も自立している。

 

品質を高めるためのHUG社内研修

社内外の専門家ネットワークを活用して、定期的に様々な研修を実施している。

 

『車いすのシーティング』

 

『口腔ケアについて』(ひまわり歯科 石塚ひろみ先生)

 

『人工呼吸器トリロジーと排痰補助機カフアシスト』(フィリップス・ジャパン社)

 

教育研修分野での地域貢献

HUGでは、これまでの知見(制度や家族ニーズ、必要なケア技術、事例、業界の課題など)を活用して、地域での教育研修にも力を入れている。

2010年~、重症心身障碍児プロフェッショナルナース育成研修受け入れ

2017年~、東京都教育ステーション事業の小児分野研修担当(河北総合病院と連携)

2017年、重症心身障碍児者QOL向上懇話会(子供たちの皮膚を守るために)

2018年、慶應義塾大学病院小児トータルケア講習会講師「訪問看護ステーションにおける小児在宅の現状と課題」

2018年、杉並区地域自立支援協議会第7回シンポジポジウム「地域おける障害児の自立を考える~障害者の地域移行について~」にパネリストとして参加(相談支援員)

2018年-2019年、東京都医療的ケア児支援者育成研修講師「医療的ケア児の地域生活を支える支援」(訪問看護)

2018年-2019年、杉並区相談支援専門員の初任者研修講師

2019年~、i-bow小児訪問看護セミナーオンライン配信「医療的ケア児の地域生活を支える支援について」

2019年、重度心身障碍児者を守る会 両親の集い12月号「在宅生活を生き生き過ごすために執筆」(相談支援員)

 

山積する小児の課題

都心では小児のサービスは増えてきているが、地方では、小児の訪問看護が不足していて、病院から退院できないところがある。ただ、都心で小児のサービスが増えたと言っても、子供は高校生に成長したが、お母さんは今も夜中でも3時間毎にタイマーで起きて体位交換をしている家庭もあり、お母さんは仕事をしたくてもできない。さらに、リハには18の壁があり、現状の制度では必要なリハビリを継続できない。また、令和に入り、重い方の退院が増え、訪問回数を多くしてほしいという方が増えている。今までは医療ケアや子育てだったが、今は、リハや療育をしたい方が増えている。

 

創業時にプレゼントした背などに入れるポジショニング用のクッション(10年以上経つ現在もサイズを大きく作り直して活用しているご家庭がある)

 

医療的ケア児支援法の成立

医療的ケア児とその家族を支援する法律が、2021年6月11日の通常国会で成立した。立法の目的は、1)医療的ケア児の健やかな成長を図るとともに、その家族の離職の防止をすることと、2)安心して子どもを生み、育てることができる社会の実現に寄与することである。法律では、これまで努力義務だった支援を「責務」と位置付けたため、地域格差が是正されていく。また、医療的ケア児は18歳以上の高校生等も対象としているため、18歳以上への支援強化も期待される。そして、保育所や学校での看護師配置が進むことで、居宅でのケアから地域へのケアが本格化する。

 

訪問自転車

 

HUGの変わらないところと変わるところ

上薗が経営の最前線を引退することになり、HUGの理念を継承しつつ、発展的な成長を期待して、2021年5月19日にケアプロ株式会社に株式を譲渡した。医療的ケア児支援法の成立という大きな節目であり、今後も小児を取り巻く状況は刻々と変化していくだろう。これまで大切にしてきたことは変えず、職員が安心して働くことができ、お子さんやお母さんが安心してサービスを利用できるように取り組んでいく。

 

金坂、清水、上薗、髙野、川添

 

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