動き出す、精神医療事業
ケアプロでは、新たに精神医療事業として、2026年2月から池袋にて、児童・思春期の精神科訪問看護ステーションを開設予定です。
https://shortcake.carepro.co.jp/
なぜ、児童・思春期の精神科訪問看護に取り組むのか?
ケアプロでは、発達障害や引きこもり、不登校などの子どもたちの教育旅行やスポーツ救護、同行支援、民間救急搬送をしてきました。
養護教諭や学校教員、教育委員会、NPO等の方々と話すと「児童の自宅に看護師さんが来てくれるサービスがあるのですか?」「家庭訪問ができず、困っています」「ご両親の支援もしてもらえるのは助かる」という声がありました。
行政保健師からは「児童発達支援や放課後等デイサービスは増えましたが、自宅へのサービスは少ない」という声。
不登校児童生徒数が最多となる中で、何かできないかを考えました。
答えは家庭の中にある
そこで、子どもの発達障害や不登校、引きこもりに対して、住み慣れた自宅に訪問看護を提供し、医療と生活の面からサポートしていきたいと考えました。
時を同じくして、同じ想いを持つ心強い4名の看護師たちと出会い、一緒に立ち上げることになりました。
立ち上げ看護師の声
「すでに訪問看護で療育に関わっており、今後、専門的に取り組み、一人でも多くの子どもや家庭に届けていきたい」
「NPOで子どもたちの支援を続ける中でも、子どもや家族と信頼関係を構築し、継続的に関わることができる自宅へのアウトリーチの重要性を感じている」
「精神科領域は個別性が高く形式知にするのが難しいからこそ、エビデンスのある教育や実践のプログラムを開発することが求められている」
解決したい社会課題
子どもの不登校や自殺、虐待などの課題は、現代社会において大きくクローズアップされています。そして、これらの社会課題は、時間とともに変化し、日本全体の休職数、就労者数、精神患者数などにも影響を与えます。早期予防や対応が大切です。
●不登校児童生徒数は過去最多の34.6万人
・文部科学省によると、2024年度の小・中学校の不登校児童生徒数は353,970人で、過去最多
・高等学校においても不登校生徒数が過去最多となり、前年度から13.5%増え68,770人
●発達障害を持つ児童は公立小中学校で推計約70万人
・文部科学省によると、通常学級に在籍する小中学校の児童生徒のうち、発達障害の可能性があると推定される割合は8.8%(小中学校25人学級に2人程度)
●小中高生は1週間で約10人が自殺
・厚生労働省と警視庁によると、2024年の自殺者は2万人余りに減少した一方で小中高生の自殺者は529人で、過去最多
・小中高生の自殺の原因や動機は、「学校問題」が最も多く、次いで「健康問題」「家庭問題」
●児童・思春期の医療体制の限界
・児童精神科医は日本に500名程度と不足、病院での初診待期期間が3カ月以上、外来診察時間は1回あたり15分程度
●通所型・入所型の療育の限界(訪問型サービスの不足)
・令和3年に、児童発達支援は、8,995事業所、利用児童136,422人
・放課後等デイサービスは、17,298事業所、利用児童274,414人
児童思春期の精神科訪問看護のサービスと料金
訪問看護は、主治医と連携してサービスを提供します。主治医に訪問看護指示書を発行してもらい、通常は週1回、30分程度からサービスを提供します。
料金は、1回5千円程度ですが、自立支援医療制度により、18歳未満の方は医療証がある場合、自己負担はありません。
児童精神科の訪問看護に共通する7つの役割
①個別性の尊重: お子さん一人ひとりの発達段階、特性、抱える課題、ご家族の状況などを詳細にアセスメントし、画一的な支援ではなく、その子に合ったオーダーメイドの支援を提供します。
②安心できる関係性の構築: 自宅という安心できる環境で、時間をかけてお子さんやご家族と信頼関係を築きます。
③生活の安定と自立支援: 食事、睡眠、清潔などの基本的な生活習慣の確立を支援し、可能な範囲で自己管理能力を高め、自立に向けたサポートを行います。
④健康状態の管理: 身体的、精神的な健康状態をアセスメントし、必要に応じて医療機関への受診を促したり、体調管理のアドバイスを行います。
⑤精神的サポート: お子さんだけでなく、ご家族が抱える不安やストレスに寄り添い、傾聴や相談を通じて精神的なサポートを提供します。
⑥多職種連携: 医療機関、学校、療育機関、福祉サービスなど、様々な専門機関と連携し、包括的な支援体制を構築します。
⑦社会資源の活用支援: お子さんやご家族が必要とする社会資源(例えば、放課後等デイサービス、就労支援、ピアサポートグループなど)の情報提供や利用のサポートを行います。
児童・思春期の訪問看護の需要推計
児童発達支援や放デイの合計利用数約40万人のうち25%が利用する場合、訪問看護の対象は、10万人になります。児童・思春期専門の訪問看護ステーション1箇所あたり200人に対応する場合、500か所必要になります。
ミッションとショートケーキの名に込めた想い
新たに立ち上げた精神医療事業部のミッションは、「生きづらさゼロ社会」です。そして、ショートケーキという名にしたのは、心の空腹感を満たし、みんなから親しまれるような存在になりたいという想いからです。
そのような想いを込めたロゴを作るため、看護師でイラストレーターのツナ。さんにデザインを依頼しました。子どものイラストはあえて性別が分かりにくいイラストになっています。また、子どもをあたたかく照らすようなデザインです。メインカラーは茶色で、自然さやぬくもり、落ち着きを持たせています。
ビジョン
「いつでも、どこでも、精神医療を受けられる社会」を目指して、学校や行政、関係機関と連携していきます。
良いケアを提供することにとどまらず、良いケアを提供する方法を広めるだけでもなく、精神医療システムそのものを変えていくようにしていけたらと思います。
戦略と革新性
サービス設計の戦略は、児童思春期に特化して、土日祝日の対応をしたり、子ども向けのNPO等と連携し、対象別プログラムを開発すること。
組織や採用の戦略は、児童思春期の訪問看護師の人材ラダーや育成プログラムを開発すること。
エリアや出店の戦略は、人口密度の高い都市部を中心にし、地域の行政や学校等との地域密着型ネットワークを構築できるところから。
また、児童・思春期の研究・教育・臨床については、未開拓の部分が多く、学校保健や精神保健、在宅医療など複数の専門領域が重なり合う部分になります。そのため、本分野の研究者や政策立案者、メディア、企業等の方々と横断的に連携していきます。
1店舗目を池袋にした3つの理由
池袋にした理由は、①需要が高い、②供給体制を構築しやすい、③地域資源が魅力的であることです。
豊島区は、人口294,595人(令和7年4月1日現在)です。9大学など130の教育機関で10万人超が学ぶ学園都市であり、2015年からの10年間で、年少人口8.5%増、生産年齢人口8.7%増、老年人口0.1%増という、若い世代が多い地域です。そして、人口密度は、1キロ平米あたり22,644人で日本一です。ショートケーキ池袋の事業所から半径4キロメートル(豊島区全域、板橋区一部、北区一部)の居住者は100万人もいます。
また、豊島区は、巨大ターミナル池袋を中心に、商業や文化、産業、情報発信など高度に集積した都市です。鉄道5社9路線+都電で1日乗降客264万人となっており、働く看護師やセラピスト等にとって、通勤しやすい場所です。
更に、豊島区では、行政や住民、地域団体、NPO等が、子ども・若者・親のために様々な取り組みをしています。
気軽に行ける場所には、ぴこカフェやだちゃカフェ、サンカクキチ、わたカフェ、ふらっとよるごはん、みらい館大明ブックカフェ、中高生センタージャンプ東池袋、中高生センタージャンプ長崎などがあります。
そして、子ども食堂ネットワークやとしま子ども学習支援ネットワーク「とこネット」、若者居場所ネットワーク会議、すずらんスマイルプロジェクトなどの子ども・若者の居場所に関する様々なネットワークがあります。
豊島区の地区別の人口
豊島区の人口と18歳未満人口、18歳未満の割合は以下の通りです。
(令和2年国勢調査 東京都区市町村町丁別報告を活用)
| 人口 | 18歳未満人口 | 18歳未満の割合 | |
| 豊島区全体 | 298,705 | 30,901 | 10.3% |
| 駒込 | 18,247 | 2,359 | 12.9% |
| 巣鴨 | 19,775 | 2,115 | 10.7% |
| 西巣鴨 | 13,010 | 1,397 | 10.7% |
| 北大塚 | 12,914 | 1,126 | 8.7% |
| 南大塚 | 17,260 | 1,561 | 9.0% |
| 上池袋 | 18,299 | 1,888 | 10.3% |
| 東池袋 | 20,612 | 1,903 | 9.2% |
| 南池袋 | 9,070 | 908 | 10.0% |
| 西池袋 | 17,492 | 1,757 | 10.0% |
| 池袋 | 19,734 | 1,227 | 6.2% |
| 池袋本町 | 18,314 | 2,122 | 11.6% |
| 雑司が谷 | 9,674 | 1,023 | 10.6% |
| 高田 | 11,878 | 1,454 | 12.2% |
| 目白 | 15,136 | 1,896 | 12.5% |
| 南長崎 | 21,592 | 2,386 | 11.1% |
| 長崎 | 19,194 | 1,962 | 10.2% |
| 千早 | 13,043 | 1,395 | 10.7% |
| 要町 | 9,953 | 825 | 8.3% |
| 高松 | 8,632 | 1,045 | 12.1% |
| 千川 | 4,876 | 552 | 11.3% |
地区別にみると、池袋は、18歳未満は少ないですが、駒込や池袋本町、高田、目白、南長崎、高松、千川は、18歳未満が11%以上をしめています。また、高齢者の街として有名な巣鴨や西巣鴨も、18歳未満が10.7%あり、子育て世帯にも住みやすい街であることがわかります。
組織戦略と立ち上げスタッフ募集
ショートケーキ池袋を、臨床・教育・研究の拠点と位置づけ、そこで人材育成を行い、品質を標準化した上で、他の地域に事業を広げていきます。開設1年程度で、ショートケーキ池袋のスタッフ数を20名程度にし、その20名の中の数名が他の地域でサテライト事業所を立ち上げていきます。ヘルスケアサービスですが、あえて「セントラルキッチン方式」とします。
そのため、初期の採用戦略は、現場や教育、管理において、リーダーシップの取れる人材を中心に募集していきます。柱になる人材がいなければ、どんなに人材を集めても崩れてしまうため、最初から高く積み上げるのではなく、まずは組織の基礎を一緒に作れる方を募集しています。もちろん、現場を中心に担っていただける方も歓迎していますが、チームのリーダーや副所長、所長になっていただける方には是非エントリーしていただければと思います。
新規受付のご相談について
2026年2月1日(日)に開設予定ですが、事前に予約の相談を受け付けます。
事業計画:2040年までに100事業所
2040年までに、都市部を中心に100事業所を作り、2,000名の看護師やセラピストを雇用する体制となり、20,000人のサポートができるように取り組んでいきます。そして、子育てしやすく、子ども・若者が自分らしく成長できる地域作りに貢献できればと思います。
この6ヶ月を振り返って
今年の6月に精神医療事業について構想をはじめたので、6ヶ月です。あっという間でした。きっかけは、ケアプロのツアーナース や精神搬送などで、不登校や引きこもり、発達障害の子どもたちと接したことでしたが、マクロのニーズ把握をして、これは本当に大きい社会課題だと思いました。改めて、日本の精神医療の現状や政策動向を調べたところ、入院中心から外来や在宅に少しずつシフトしてきていますが、統計的に20代以降にガクッと精神疾患の診断がつく人が増えることに疑問を持ちました。これは、児童思春期にも精神障害を抱える人たちがいるものの、適切な治療や支援を受けていないのではないか。診断や治療をする供給体制がないのではないか。一方で、不登校の児童生徒数は過去最多になっています。そのような中で、変化の兆しがあるのは、児童精神科の医療機関の待機が増える中で、最近、児童精神科の医師の皆さんが病院を辞めて開業する人が増え、徐々に地域で児童をみる体制が広がっていることです。看護としても在宅で児童思春期の精神看護を提供できるようにしていくタイミングだと思いました。
まずは、児童思春期からと考えていますが、対象を成人に広げたり、サービス内容に通所等を加えたりすることを視野に入れています。そのため、在宅医療事業ではなく、精神医療事業としています。
構想しながら精神科の臨床家や研究者に相談しました。そして、立ち上げメンバーが決まり、市場調査や他社事例の研究をしながら事業計画や組織計画を立てました。ブランディング戦略や採用戦略に基づいて、ロゴは看護師でイラストレーターのツナ。さん、ホームページはNPO業界に強いリタワークスさんに依頼しました。ケアプロ社内には8月末に共有し、他事業部から一名が本領域に強い関心を持っていたため、異動して事務をしてくれることになりました。しかし、物件がなかなか見つからず苦労しました。最終的に、自転車を20台程度置ける駐車場付きの一軒家が見つかりました。現在、豊島区周辺の関係機関に挨拶回りをしながら、開設準備をしています。注目される分野だからこそ、スタッフ教育や品質、必要最低限の訪問回数にして社会保障財源を浪費しないことが大切です。また、若い世代の看護師やセラピストほど不登校が身近で、この分野のキャリアに関心を持っています。そして大人の精神科訪問看護は苦手だけど児童思春期は好きという人もいます。なお、児童精神科の病棟で働くのは安心だけど訪問は責任が大きいのでハードルが高いという意見もあり、働く人の安心や安全も大事。さらに医師の中には訪問看護が何をやるのかわからない人も多く、具体的な事例を伝えて、イメージを持ってもらう必要があります。黎明期にあるので、色々な方に相談しながら実践を積み重ね、学会での発表やメディアからの発信、政策提言もできたらと思います。












