訪問看護を活用したDCT手法の研究

公開日:2024/09/06 

 弊社では、2021年よりDCT(Decentralized Clinical Trials)の手法の1つである、訪問看護師が居宅で治験薬投与や採血等を行う在宅治験のサービスを開始しました。

 日本ではまだ実績が少なく法整備がこれからである中で、訪問看護師が臨床試験において果たすべき役割とそのための課題を明確にすることの必要性を感じました。

 そこで、「訪問看護事業所を活用した臨床試験手法の導入に向けた検討」という研究課題で研究を開始しました。また、一般社団法人全国訪問看護事業協会(以下、訪問看護事業協会)の研究助成に応募し、その結果、令和4年度の研究助成に採択されました。今回は、研究報告書の概要をご紹介します。

 本研究は「訪問看護事業所を活用した臨床試験手法の導入に向けた検討」として2つの研究から構成されています。第1研究では法制度上の役割を、第2研究では実務上の課題を探り、訪問看護師が臨床試験で効果的に貢献するための指針を示しています。

1)第1研究

研究課題:訪問看護師の臨床試験における法制度上の役割について

目的:訪問看護師の臨床試験における法制度上の役割について明らかにし、訪問看護師が必要とする事柄を抽出する。

2)第2研究

研究課題:訪問看護師が臨床試験で役割を果たすための課題や考慮すべき事柄は何か

目的:訪問看護師が臨床試験で役割を果たすために知っておく必要がある事柄を訪問看護師の実践から抽出し、事前に必要とする事柄を抽出する。居宅での臨床試験の実践経験のある訪問看護師にインタビュー調査し、実践に必要な事柄を抽出する。同時に居宅での臨床試験を実践経験した他職種に対してもインタビュー調査し、訪問看護師の活動に対する期待を抽出し、学習項目としてまとめる。

第一研究:訪問看護師の臨床試験における法制度上の役割について

 この研究は、訪問看護師が臨床試験において果たすべき法的役割を明確化することを目的としています。新型コロナウイルス感染症の影響により、臨床試験に参加する被験者の治験実施医療機関への訪問が難しくなり、治験実施医療機関へ来院することなく、訪問看護師が患者の自宅で検査や治験薬の投与を行うケースが増えておりますが、法制度上、訪問看護師の役割は明確になっていない状況です。この研究では、日本における臨床試験の法制度の変遷を4つの時期に分けて詳細に分析しています。まず、1964年から1988年までの「臨床試験の規制創成期」では、法制度上で看護師の役割が明示されていなかったことが特徴です。次に、1989年から1996年までの「GCP法制度化前期」では、治験に関する通知が発出されましたが、看護師の役割はまだ明確ではありませんでした。1997年から2019年までの「GCP省令および臨床研究法の法制度化期」では、治験協力者として看護師が法制度に明記され、臨床試験への関与が本格化しました。最後に、2020年以降の「法制度の運用拡大期」では、新型コロナウイルス感染症の影響により、訪問看護師が居宅での治験に関与する事例が増えてきました。この研究は、各時期の法制度の進展と看護師の役割の変遷を明らかにし、今後の臨床試験における訪問看護師の役割を探る重要な基盤を提供します。

第二研究:訪問看護師が臨床試験で役割を果たすための課題

 第二研究では、実際に臨床試験に従事する訪問看護師が直面する課題や、求められる知識・スキルを明らかにすることを目的としています。本研究では、臨床試験の実践経験のある訪問看護師に半構造的インタビュー調査を行い、実践に必要な事柄を抽出し、同時に臨床試験を実践した他職種に対しても半構造的インタビュー調査を行い、訪問看護師の活動に対する期待を抽出し、課題学習としてまとめました。

 具体的には、治験薬の管理や患者とのコミュニケーション、データ収集の難しさ、治験責任医師との連携など、実務的な面での課題が浮き彫りになりました。また、訪問看護師が臨床試験で必要とされる知識として、医薬品の管理方法や臨床試験に関連する倫理的な考え方が重要であることが確認されました。さらに、他職種との協働や、訪問看護師が臨床試験においてどのように貢献できるかについての期待も示されました。

 本研究で抽出された学習項目

・臨床試験の仕組み

・業務に関連する法令

・必要なデータ収集をするために、臨床試験特有のルールがあることを理解した上

で手順書に則り検査等を実施できる知識、技術

・ALCOAの原則を理解し、適切に原資料を作成する技術、考え方

・症状観察のスキル、有害事象の概念の理解

・緊急時に適切な対応ができる技術、知識

 

 学習項目以外で、居宅での臨床試験の環境を整えるにあたっての課題

・臨床試験の法制度をはじめから学び、対応しなければならなかった

・試験に特有な知識や技術があり、それらを独力で学習することになっていた

・試験に必要な医療材料の入手や使用方法、持参方法に困難があった

・今回の面接資料では収集されなかったが、療養者の健康上のリスク管理をしっかりしておく必要がある

・試験を行う時間が定められており、所要時間も長く、指定訪問看護業務との並走に困難があった

 

 本研究は、訪問看護事業協会のホームページにて全文をご覧いただけます。

・訪問看護事業協会ホームページ: https://www.zenhokan.or.jp/

・研究報告書全文: https://www.zenhokan.or.jp/wp-content/uploads/researchgrant2022.pdf

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