令和5年6月1日に規制改革推進会議から「規制改革推進に関する答申 ~転換期におけるイノベーション・成長の起点~」が出されました。
規制改革は、社会課題の解決に向けた取組を成長のエンジンへと転換し、社会課題の解決と経済成長を同時に実現する新しい資本主義の実現に向けた重要な取組 であり、イノベーションを阻む規制の改革に取り組むことが重要であるとしています。
本当に、転換するのか、が重要です。
いくつか、気になったところを概観していきます。
在宅領域など地域医療における医師―看護師のタスクシェア
今回、訪問看護においては、こちらが最も大きな影響を与えるものと考えられます。また、具体的に進んでいくと想像できます。
ケアプロ訪問看護ステーション東京(ケアプロ在宅医療株式会社)でも、現在、日本看護協会の調査研究に関わらせていただいていますが、特定行為や包括指示等を活用して、どのようによりより在宅医療を提供できるか、また、その課題は何かを考えています。
今回の答申をピックアップします。
「厚生労働省は、在宅医療において、患者に対し適時に適切な医療が行われることを確保する観点から、看護師が医師の包括的指示を受けて行い得る業務を明確化するため、現場のニーズを踏まえて、包括的指示の例を示す。」ということで、都度、医師に確認する作業が必要なくなります。
また、「在宅医療など地域医療の現場において、虚弱高齢者に対する生活評価(入浴等)、認知機能評価、生活習慣病患者に対する指導等については、看護師限りで実施可能な行為の範囲が不明確であり、結果として医師に都度確認があるため、医師、看護師の双方にとって負担となっているとの指摘があることを踏まえ、適切な連携のもとに円滑に対応されている具体例を示す。」ということで、診断ではない評価、医療行為ではない健康指導が明確になります。
「厚生労働省は、現行の特定行為研修終了者の活躍の場が大病院に偏っているとの指摘を踏まえ、特に、地域医療(地域の小規模医療機関での外来看護や訪問看護など)で活躍可能な特定行為研修修了者の養成を促進し、医師不足が顕著な地域を始めとする各地でのケアの質を維持するため、以下の措置を講ずる。」ということで、特定行為研修の普及、修了者の地域医療での活躍が期待されます。
「医師、看護師が実際に果たしている 役割や課題を令和6年度及び7年度に調査し、更なる医師、看護師間でのタス クシェアを推進するための措置について検討する。その際、限定された範囲で 診療行為の一部を実施可能な国家資格であるナース・プラクティショナー制度を導入する要望に対して様々な指摘があったことを適切に踏まえるものとする。」ということで、色々な打ち手を打っても、対応できない場合は、国家資格であるナース・プラクティショナー制度の導入の必要性について、引き続き、検討されることになっています。ただ、私としては、いろいろ手を打つ前に、ナース・プラクティショナー制度を大きな手として打つべきかを検討しておくべきと思いますし、これで多くのことが解決するなら、最初から最善策を打つべきと考えます。
在宅医療における円滑な薬物治療の提供
こちらは、私も規制改革推進会議で発言させていただいたものですが、薬剤師会の方々との関係調整もあるので、現実的に進められるかどうかには大きなハードルがあります。夜間や土日など、薬物が必要な時に、患者さんのために迅速に利用できるように現実的な落とし所が見えると良いです。
答申では、「厚生労働省は、医師から特定の患者に対する診療について包括的指示を受けた看護師(当該包括的指示に特定の薬剤の投与が含まれる場合に限る。)が夜間・休日を含め必要時に、医師に連絡がつかない事例や、在宅で看護師の同席の下で患者に対してオンライン診療(D to P with N)を行う場合など看護師が医師と別の場所にあって、かつ、医師が医療機関外で処方箋を円滑に発行できない事例が存在するとの指摘を踏まえ、在宅患者が適時に必要な薬剤を円滑に入手可能とする観点から、具体的にどのような地域にどの程度の頻度でどのような課題があるかについて現場の医師、薬剤師、看護師及び患者等に対して調査を行い、必要な対応を検討する。」となりました。
全国の実態を踏まえて、決まっていきそうです。
通所介護事業所や公民館等の身近な場所におけるオンライン診療の受診の円滑化
こちらは、オンライン診療の活用や拡がりについて、大きく期待できるものの、医師会の方々との関係調整の中で、具体的にどのような運用まで可能になるのか、注目される内容です。
答申では、「厚生労働省は、個別の患者が居宅以外にオンライン診療を受けることができる場所について明らかにするとともに、デジタルデバイスに明るくない高齢者等の医療の確保の観点から、今般へき地等において公民館等にオンライン診療のための医師非常駐の診療所を開設可能としたことを踏まえ、へき地等に限らず都市部を含めこのような診療所を開設可能とすることについて、引き続き検討し、結論を得る。」ということです。
例えば、都市部の介護施設や公民館、イベント会場等で、看護師による簡易検査とオンライン診療との連携がしやすくなることを期待したいです。
パンデミックの際も、PCR検査などをして、その診断を行って、迅速対応していくことにも活用していけると良いです。
科学的介護の推進とアウトカムベースの報酬評価の拡充
こちらは、すでに進んでいたデータを活用した科学的介護について、報酬評価に組み込むという話です。
答申では、「介護現場及び学術的観点から提案される情報について、専門家等による検討を経て、関係審議会において議論を行い、3年に1度の介護報酬改定につなげるサイクルを構築する。」ということなので、介護事業者やシステムベンダーは、科学的介護情報システム(LIFE)と報酬をよく見て、経営していくことになります。
法定健康診断項目の合理化等
こちらも、重要な話です。
「厚生労働省は、労働安全衛生法(昭和 47 年法律第 57 号)に基づき労働者の健康の保持増進のための措置として事業者が労働者に対して行うこととされている定期健康診断(以下「事業主健診」という。)について、各検査項目は最新の医学的知見や社会情勢の変化等を踏まえ、項目単独又は他の項目と併せて就業上の措置を行うためのデータとすることが期待できるものとして妥当性のある検査項目を設定する必要があると考えられることから、医学的知見等に基づく検討の場を設け、検査項目(検査頻度を含む。)及び検査手法について所要の検討を行い、結論を得る。」とあります。
もともと工場で働く男性向けのような項目が多く、女性や最新の健康課題に照らして項目を検討してもらえると良いです。
また、「厚生労働省は、事業主健診の結果に基づき実施する就業上の措置及び保健指導(以下「事後措置」という。)について、小規模の事業場を中心にその実施が低調であるとの指摘があることを踏まえ、産業医の選任義務のない小規模事業場等の事業者による健診の結果を踏まえた適切な事後措置の推進のため、異常所見者については、医師等から意見を聴取し当該意見を勘案して就業上の措置を講ずること又は保健指導の実施に努める必要があることを周知徹底する。」とあります。
ただ、こちらは、周知徹底しただけでは、変わりません。50人未満事業所には、産業保健師を選任するなど、何らか義務化をしていく必要があります。
すでにこの答申に対する厚生労働省の対応方針について、業界団体との間でも調整があり、答申の通りには進まない可能性が高い案件も多いようです。
規制を変えて、現場の運用に落とし込むことは、大きなコストを伴うことですので、実際に費用対効果が高いものでなければいけないことは、理解できます。
ただ、人口減少社会や高齢化社会において、これまでのやり方では限界を迎えつつあるため、転換点になることを期待しています。