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公開日:2021/12/14

代表ブログ

看護学生のドコケア体験記

イントロダクション

看護学生の佐村さんは、茅ヶ崎にお一人でお住いの末永さんの外出の付き添いをすることに。

 

しかし、

「学生が付き添い支援するのは、良い経験になるが、危険なこともあるのではないか」

そんな言葉を、看護大学の教員からいただくこともある。

 

そこで、今回、末永さんやご家族の許可をいただき、実際の内容を伝えるべく記事にさせていただいた。

 

※「ドコケア」とは、外出支援を依頼できるマッチングサービス

 

写真:佐村さん(左)、末永さん(右)

 

 

 

 

 

 

 

大阪の娘さんからのご依頼

「適度に運動しておいしいものを食べて余生を過ごしてもらいたいと思っております」

娘さんから佐村さんに届いたメッセージであるが、親の介護をしたくても、地理的に難しい人は多く、介護離職やヤングケアラーは社会問題になっている。

昨年の秋、末永さんはがんが見つかり、一時、寝たきりになったものの、手術はせず、自分の好きなことをして一年ほど経過し、今はすっかり体もふっくらし、明るく元気に過ごせるようになった。そのような中、ドコケアのパートナーである全国訪問ボランティアナースの会「キャンナス」の方からドコケアのことを紹介され、遠方に住む父親のために、ドコケアを活用することになった。

大阪の娘さんから、最初はドコケアのカスタマーサクセス担当(お客様の成功を支援する担当、以下CS担当)に連絡が入り、お父様のご自宅に近いという理由で、CS担当から看護学生の佐村さんが紹介された。娘さんは、看護学生には馴染みがあり信頼していたので、抵抗なく依頼できたという。

佐村さんは、学生時代から介護現場の夜勤をするなどして働いたことはあったものの、初めてのドコケアで、依頼をお受けできるか、不安があった。ただ、娘さんが末永さんのことをドコケアのプロフィール欄に詳しく記載してくださっていたことやCS担当の支援もあり、お引き受けすることになった。

画像:プロフィール登録イメージ

 

 

 

 

 

 

外出予定日前に転倒!?

10月23日の外出支援の依頼が来た。

しかし、その後、「転倒された」ということで、10月22日に事前の顔合わせをし、歩行状態の確認をすることになった。

遠方のご家族が直接見ることができないため、その意味でも、ドコケアは家族の代わりとして貢献できる。

 

初めての訪問は賑やかな1時間

10月22日、佐村さんは、自宅近くから1時間に一本のバスに乗り、茅ヶ崎にある末永さんのご自宅に向かった。しかも、このバスが遅れるので、佐村さんの地元沖縄かと思った。なお、バス代をドコケアの見積もりに入れるか悩んだが、入れさせていただいた。

今回は、初めていく場所なので、1時間前に行って、次の日の外出先である公民館の下見をしたり、横断歩道がない道が多いので、どのように移動するかを考えたりしていた。下見の時間は、介助料には含まれないため、依頼時間以外にも時間はかかる。そして、調べた住所にたどり着き、表札を確認して、「こんにちはー」と、中に入った。

すると、何やら、賑やか。最初は、誰が誰だかわからなかったが、歯科医師やヘルパーらもいたのだ。最初の10分は、訪問歯科の口腔ケアを見学した。看護実習のようだ。

その後、挨拶と歩行確認をさせていただいた。挨拶では人生で初めての名刺を渡した。名刺には10月23日からサポートいたしますと記載した。末永さんは、「ありがたいね」と言われ、テーブルのシートの下に、他の名刺がそうであるように、大切に置かれた。

画像:業務開始イメージ

 

 

 

 

 

 

 

歩行訓練で、久しぶりに2階まで歩く

「お家の中で歩行の確認をさせていただけますか」

普段は2階には行かないということだが、階段の登り降りもしてみた。久しぶりに2階に登ったので部屋を確認されていた。左足を少し引きずられ、ズボンを履かれるのに少し苦労される。また、階段は急な螺旋状でカーテンが階段にもあり転ぶリスクがあった。階段2往復に、15分かかった。

その後、佐村さんは、1時間のドコケアタイムの残り時間を、どう使うかに悩んだ。

 

テレビを観ながら生活支援

末永さんは、テレビを見るのが好きで、スポーツ番組を見た。また、娘さんから1日に数回電話が来ており、弁当の宅配が届くという。そこで、弁当を温めたり、お茶を入れたり、朝のご飯を片付けたりした。ドコケアは外出支援がメインであるが、生活支援も一部行う。

末永さんは、あまり喋らなかったが、「私の名前に注目して、佐村しほなのか、志村しほなのか」を幾度も突っ込まれながら、初日を終えた。

画像:業務完了イメージ

 

 

 

 

 

 

初日を終えて、事前情報とギャップはあったか

娘さんが慎重で、事前に情報をくださった。そして、細かいチャットのやり取りがあったので、末永さんにお会いしたときの印象にギャップはなかった。

ドコケアでは、事前情報と大きく異なり、安全な介助を行えないと判断した場合はキャンセルできるようにはなっているが、依頼者が遠隔の場合、実際に会ったときに、事前に得た情報と違う可能性は大いにある。

また、今回は、訪問歯科やヘルパーなど、多職種が入っているが、ドコケアでは幅広いニーズに対応する制度の隙間を埋めるサービスのため、こんな支援が必要だと言うことを、娘さんやケアマネに報告することができれば良い。

画像:チャットイメージ

 

 

 

 

 

 

公民館での出待ち

ドコケア2日目は、公民館へのお迎えだ。夕方16時45分ぴったりに、公民館の扉が開いた。娘さんからは「コロナで一年半ぶりの町内会の方々との集まりだから楽しみなはず」と聞いていた。コロナによって、外出機会が減ったことは介護業界でも問題視されていた。

なお、歩行器だと聞いていたが、杖歩行だったので、少し不安になった。さらに、17時過ぎて突然暗くなり、不安が増した。ただ、地域の方々が、自転車を降りたり、止まってくれて、意識して避けてくれて、温かい気持ちになった。そして、車が通らないところを末永さんが教えてくれて、遠回りして30分かけて帰った。

資料:コロナの影響についての専門家へのアンケート調査結果

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ごっついマッサージ屋さん

帰宅すると、予約していたマッサージ屋さんが待っていた。ごっつい人で、マッサージをしながら末永さんに対して「前よりだいぶ回復しましたね」と。

マッサージを見学しながら、ふと見渡すと、前日にはなかった手すりがリビングに付いていた。末永さんは「息子がつけてくれたんだよ」と。息子さんは月に数回いらっしゃるらしい。

少しずつ、佐村さんは末永さんのことや末永さんのまわりの人たちのことを理解していった。

そして、帰り際に、ヘルパーさんが来て、飲む薬の場所や内服タイミング、インスタント味噌汁の置き場所と作り方を今後のために、と教えてもらった。

 

雨で散歩中止

10月29日は、「晴れていたらお散歩に行ってください」と言われた。ドコケアの依頼は予定変更がありえる。実際には雨だったので、家からは出なかった。

その日は、セブンイレブンのカフェラテを飲みに行く予定だった。そこで、「私が買いに行きましょうか」と提案し、350円を預かった。ただ、10円足りなかったので、ドコケアのウェブアプリ上での請求に10円を追加させていただいた。無糖のRegularサイズを2つ購入し、一緒に飲んだ。末永さんは「おー、ありがとう、ありがとう」とご満悦だった。

外出ができないため、末永さんが好きな番組を観た。ガスタンクの解体をする番組では、今まで大人数で解体していたが、スイカ模様のガスタンクを作った会社があり、一人でりんごの皮むきのように解体できるようになったことが紹介され、「日本はすごいんだ」という話をした。グレートトラバースという日本名山の番組では、以前、登っていた話を聞き、外出が待ち遠しくなった。

余暇を一緒に楽しむことは公的サービスではなかなかできないことである。

 

晴れの日のご依頼

「明日、晴れになりました」と連絡があり、11月3日(文化の日)の依頼が前日に入った。近くの神社まで初詣の練習に行くことになった。

「お宮さんに行くので、ちゃんとしたものを着よう」

歯磨きと着替えをして外出した。ただ、歩き始めたらズボンが脱げてしまったため、ゴムのあるズボンにした。神社までは坂道なので、杖ではなく歩行器を案内した。

 

 

 

 

 

 

神社に到着すると、今まで見たことのない神妙な面持ちになられた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、歩行器を横に置いて、手を合わせた。

 

 

 

 

 

 

空は晴れ、心地よい風が吹いていた。葉っぱが動いているのを見て、一言。「かにだ」(笑)

帰り道は、歩行器のブレーキを使いながら坂を降りていった。

 

 

 

 

 

途中、歩行器の椅子に座って休憩していると5人家族が歩いてきて、今まで見たことがない笑顔で子どもに笑いかけていた。犬のフンがあって、避けましょうと言ったら「落し物だね」とユーモア。

帰宅して、「日本国旗を立てるのを忘れてた」と仰られた。その日は、文化の日(明治天皇誕生日)であるが、現代の若者には国旗を掲揚する習慣がない。佐村さんは、大きな国旗を初めて掲揚した。

 

 

 

 

 

 

娘さんとのチャット

娘さんと佐村さんはチャットで連絡を取り合っている。

「昨年は目の前が真っ暗になりました」

「あとどれくらいっていうのは誰にもわからないので極力好きなことに参加してもらってます」

「私としても、末永様が笑顔で安全に過ごせることをサポートしていきたいと思っております」

「娘様が見られない時の様子もしっかりと記録しお伝えいたします」

ご家族やご本人の想いに直接応えていける醍醐味がある。

 

継続依頼と引き継ぎ

末永さんのサポートは合計5回になった。ただ、佐村さんは大学4年生で、これから国家試験の勉強がある。大学卒業後は引っ越す。そのため、他のドコケア介助者に引き継ぐ必要がある。家族や一部の介助者だけでなく、支え合える人がいることが重要である。

 

娘さんへのインタビュー

平日の夜、娘さんにzoomでインタビューさせて頂いた。佐村さんと娘さんが顔を合わせるのは初めてのことだった。話してみると、実は、娘さんは、大阪でケアマネジャーとして働いており、介護業界についてはお詳しい方だった。

 

改めて、ドコケアを使う背景を聞いた

お父様(末永さん)は、以前は、自転車に乗って、自由に動いていたが、2020年の秋にがんが見つかった。ただ、検査だけでもダメージが大きかったため手術はしないことにした。辛い検査や入院をしなくていいと前向きになり、デイサービスに週5回程度通い、好きなことだけをして、少しずつ回復した。

この1年は、娘さんの会社の協力もあり、2週間に1回は帰省して、月の半分くらいはお兄さんも含めて子どもがいる状態になった。そして、寝たきりから、今は散歩ができるようになり、温泉などの旅行をして楽しんでいる。三崎港で渡し船に乗った時は、急勾配で乗るのが大変だったものの、本人がすごく乗りたがり、船頭さんにも手伝ってもらった。海に停泊している船をみては大興奮だった。

写真:末永さん(左)、娘さん(右)

 

 

 

 

 

 

 

ドコケアを知った理由

大阪に引っ越す前に、藤沢のナースケアで働いており、ナースケアの菅原代表が取り組んでいる全国訪問ボランティアナースの会「キャンナス」の会報誌で、たまたまドコケアのことを知り、スマホでドコケアに登録した。

 

ドコケアを使う理由

お父様が、がんになり、ちょっとしたお出かけのサポートを家族以外に依頼したかったが、茅ヶ崎には大阪のように家政婦のサービスが少なくて困っていた。訪問介護も人手不足で頼めない状態だった。外出は認知や精神面にも良いが、介護保険では変化のない決まり切ったことばかり。

 

ドコケアを使った感想

介助者の佐村さんが、前もって、移動ルートの下見をして確認していたことに驚いた。スマホでのやり取りは、素早く対応できるので便利に感じている。日常的に必要だけど、家族ができないことに対するサポートは嬉しい。

 

今後の介助についての要望

自由に暮らしていた時に通っていた「斎藤さんち」というカレーの食堂に行けたら良い。また、佐村さんが引っ越してしまった場合は他の介助者に依頼することになるが、女性が良い(男性の介助者には、お父様が遠慮して要望を言わなくなってしまう)。

 

どの様な方にドコケアを勧めたいか

娘さんは言う。

私が勤めている住宅型の有料老人ホームでは、できるだけ自由に様々なサービスを選択してもらって希望に沿った生活をしていただければと思っている。利用者さんの中には帰宅願望を訴える方や四国のどこどこに行きたいと具体的な希望を言い続ける方がいる。深夜バスを乗り継いで帰ると言う風に行動的にされる方もいる。ただ、実際には足が不自由なので、一人では不可能である。

もう90代後半で、自分が一生懸命貯めたお金なので、支援を受けて行ってくることができれば良いと思ったことがある。ドコケアが身近なサービスとして定着したら、きっと高齢者の夢も叶うと思う。高齢者は若い方や子供を見るととても生き生きとうれしそうにされる方も多くいらっしゃる。

今は介護職の離職が進み、人手不足のため機械化が進み、センサーが標準化される勢いを感じる。しかし、実際に現場ではお年寄りはセンサーでは対応しきれず、やっぱり人の力だと思う。ぜひドコケアに発展をしていただければと思う。

 

看護学生がドコケアで学んだこと

佐村さんは、末永さんのドコケア経験を通して学んだことが5つある。

1、事前の情報収集が重要
依頼者プロフィールや利用者プロフィールだけでなく、当日のお出かけの道順で危険な箇所がないかを確認し把握しておく。

2、利用者本人の意思を尊重することが重要
神社の日は、ご本人の希望により、当初予定していたセブンイレブンでカフェラテ購入はパスした。

3、依頼者の要望を最大限叶える努力はするが、厳守するということではない
依頼者と利用者で思いに多少の違いがある場合は、慎重な判断と報告が必要になる。

4、依頼者への業務報告の内容を工夫する
遠く離れている依頼者にお出かけで楽しんでいる様子などが伝わるように報告する。

5、介助者である私に興味を持ってもらえるように努力する
佐村さんの場合は、カメラで写真を撮ったりして思い出に残るように工夫した。

資料:事前の情報収集等について記載しているドコケア学

 

 

 

 

 

 

 

看護学生へ、ドコケアのすヽめ

佐村さんは言う。

「もしよろしければ、ドコケアの介助者になってみてください」

「きっと素敵な出会いと経験が待っていると思います」

「(介助する不安は)始まってしまえれば、何も心配はなかった」

娘さんとのチャットのやり取りがあったからだ。そして、事前に大学の教科書を広げて色々下調べをしていたので、看護学生の強みが発揮された。ただ、どうしても最初の介助に不安を感じる人はいるので、その場合は、サポーターの付き添いがあると安心する。そこで、もし、看護学生で、初めてドコケアを行う場合は、佐村さんがスペシャルサポーターとして初回同行も検討してくれるとのことである!

看護学生は、約20万人もおり、思いや知識、技術、経験において、看護師ほどではないが、一般の学生に比べて、持っているものがある。一億総活躍社会ではないが、一億総看護社会くらいにならなければ、これからの少子高齢化の支え手不足は解消されない。その意味で、看護学生が、他の学生を先導する立場として、ドコケアをはじめ、医療や介護、福祉等の地域活動に取り組んでいくことを期待する。

写真:金沢大学で大学生や大学院生にドコケアのことを講義する佐村さん

 

 

 

 

 

 

 

≪ご案内≫

佐村さんは、学生インターンとしても活躍しています。現在、ケアプロでは、社会人インターンも募集しています。

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