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公開日:2022/09/30

代表ブログ

訪問看護ステーションを活用した臨床試験手法の導入に向けた検討

はじめに 〜患者中心の臨床試験に向けて〜

訪問看護ステーションとして臨床試験を専門に行う「つながりをもっと。訪問看護ステーション」を運営するケアプロでは、「訪問看護ステーションを活用した臨床試験手法の導入に向けた検討(令和4年度一般社団法人全国訪問看護事業協会研究助成)」をテーマとする研究に取り組むことになりました。

 

 

※資料:JPMA TF-3 報告書2020年9月 6頁  

 

背景① 〜臨床試験を身近に〜

ケアプロでは、セルフ健康チェックを駅前等で行いながら、臨床試験のボランティア募集をしたことがあります。臨床試験について悪いイメージを持たれている方や正しく理解されていない方が多い一方で、詳しい話を聞いた上で、協力したいという方もいました。現在、医薬品開発において Patient Centricity の概念の浸透やオンライン診療等の活用により、医療機関への来院に依存しない臨床試験手法に注目が集まっています。そして、DCT(Decentralized Clinical Trial:分散型臨床治験)が普及する中で、臨床試験が正しく理解され、より身近なものになると期待されています。

 

背景② 〜小児からがん、難病の訪問看護〜

ケアプロでは、2012年よりケアプロ訪問看護ステーション東京を、中野区や足立区を中心に展開してきました。1事業所の職員数が30名以上と業界の中でも大きく、がんや難病など医療依存度の高い方に対して、24時間365日体制で対応しています。また、2021年には小児専門の訪問看護ステーションHUGの事業承継をし、0歳から100歳まで、幅広いニーズに対応できるようになりました。

 

背景③ 〜臨床試験の負担と訪問看護の可能性〜

全国的に在宅医療が普及し、患者や家族の意向が尊重され、住み慣れた自宅で治療や療養、看取り支援を受けられる体制が整ってきており、臨床試験を在宅で受けることの意義は大きいと考えています。何故ならば、「治験に参加して悪かったことは?」という患者調査では、拘束時間の負担 23.4%(1位)、通院の負担 22.3%(2位)となっており、通院や時間の負担を軽減できるからです。

さらに、2020年に新型コロナウイルス感染症が世界的に流行し、人々の移動や接触が制限され、私達の生活や社会に大きな影響を与えています。臨床試験の実施も例外ではなく、被験者が医療機関に来院できない被験者の安全管理が困難になる、試験薬の提供ができない等、実施計画書に沿った臨床試験の遂行に影響が出ています。

※資料:延山 宗能. わが国における治験実態および患者満足度調査—治験参加前,治験参加後,今後の治験への期待—. THERAPEUTIC RESEARCH 2019 40 (12) 961-80.

 

背景④ 〜訪問看護における臨床試験のあり方〜

規制改革実施計画(令和3年6月18日 閣議決定) において、医療分野におけるDX化の推進の中で、治験の仕組みの円滑化が明記されました。そして、2021年7月、日本製薬工業協会医薬品評価委員会 臨床評価部会タスクフォース3からは、「医療機関への来院に依存しない臨床試験手法の活用に向けた検討 -日本での導入の手引き-」が出されました。その中で、DCTの可能性として、「医療機関と患者の自宅との距離的制約や時間的制約、並びに疾患や身体障害の影響で定期的な来院が困難な事情による参加機会への影響は低減できると考えられる。」と述べられており、治験における訪問看護は、以下に示すような業務で活用が期待されています。

・治験責任(分担)医師の指示に基づく採血。採血後の検体の温度管理、静置、遠心処理・分注、検体発送 

・ポータブル心電図等、被験者宅に持ち運び可能な機器による検査。放射線技師派遣による X線検査

・服薬管理、看護師が日常実施している範囲での侵襲を伴う薬剤(注射等)の投与。投与後の経過観察

・オンライン診療、ePRO、ウェアラブルデバイス等の利用支援

しかし、訪問看護ステーションの当事者らによる現場の視点からの具体的なあり方やスキームの検討はなされておらず、看護師や被験者の安全確保をしながら治験業務を行うためには議論が必要だと思われます。「つながりをもっと。訪問看護ステーション」で、在宅治験を開始しましたが、看護師への在宅治験に関する知識や技術のトレーニング、医療機関等とのスケジュール調整、医療機関等との契約、必要資材、機器の調達・管理、在宅治験のワークシート及び報告書の品質保証等、訪問看護を活用した治験全般の業務に特有のノウハウが必要であることがわかりました。他の訪問看護ステーションから在宅治験について問い合わせを受けますが、訪問看護による在宅治験に関する先行研究や教育プログラムは存在しません。また、訪問看護では、家族やケアマネジャー、訪問診療医等との連携が重要であり、在宅治験を実施する上でも、家族支援や関係機関との連絡調整として、どのようなことが重要になるのかを明らかにする必要があります。

 

すでに、いくつかの在宅治験を行う中で、炊飯器よりも重たい遠心分離機を事務所からタクシーで持ち運ぶだけでも大変なことがわかっています。

研究目的

今回は、通院負担が大きく、在宅に多い神経難病の領域に絞り、訪問看護ステーションを活用した臨床試験を行う際の課題やメリットデメリットを調査し、被験者や看護師の安全が守られ、看護師が必要な能力を獲得した上で、プロトコルに沿った在宅治験が行われるための基礎資料とすることとしました。

 

研究者

この度、治験コーディネーターを経験したことがある訪問看護師や訪問看護ステーション管理者をはじめ、医療機関や大学で臨床研究に携わっている方や法律の専門家、薬事の専門家、在宅医療の専門家等に共同研究者としてご参画いただきました。

 

研究結果は、全国訪問看護事業協会のホームページにて、公表される予定です。

 

本研究や在宅治験に関することなどについてのお問い合わせは、ap(アットマーク)carepro.co.jpまでお問い合わせください。

 

<参考>

「新薬開発×訪問看護師」という新しいキャリア(募集情報)